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    “ R E A L ”

    − 中小企業編 − vol.1

    久保田憲一

     

    ―このスナックでは、いつから働いていますか?

     

     私は大学を卒業後、親戚の縁でスナック経営の業界に入りました。この店自体は開店から40年近くたちましたし、私も32年間働いてきました。その間にバブルの好景気も経験しましたし、その時期を知っている分、現在の不景気にはとても実感があります。

     

    ―お店はおひとりで営業されているんですか?

     

     昔は10人ほどで仕事をしていました。現在は、私1人と週末にアルバイト1人、それで十分になりました。それくらい、お客さんの数の規模が変わったんです。

     

    ―お客さんは減っているんですか?

     

     来店者数のピークは、昭和の終わりから平成の初め頃でした。現在は祇園全体でも、その頃の5分の1くらいに減りました。今、祇園に空き店舗が1000軒以上あるんですよ。カラオケのメーカーさんによると、現在の祇園にはカラオケ設置店が800店しかないそうです。これも、以前に比べるとすごい勢いでの減り方です。

     

    ―ほかに、時代の移り変わりを感じたときはありましたか。

     

     祇園町の、辰巳神社のすぐ横に、有名な和風の料理屋があったんです。京都の中小企業の旦那衆がよく足を運んでおられたんですが、お客の入りが悪くなって、結局去年の夏に閉店してしまいました。今ではまるで幽霊屋敷のようになってしまったのを見ると、寂しくなります。あのお店の閉店が、京都の地元産業の落ち込みを象徴していると思います。

     金曜日の夜って昔から「花金」って言うでしょ。でも、今の京都は地場産業で働くサラリーマンの懐事情が悪いから、週末ですら飲みに出ないんですよ。それくらい、時代が変わりました。“京都シリコンバレー”と言われる京セラ、ローム、任天堂、島津製作所といった大企業は、確かに円安誘導で史上最高益を挙げていますね。でも、中小企業の現状とは全く乖離しています。

     

    ―大企業で働く人がお店に来られることはないんですか。

     

     大企業にお勤めの人もたまには来られますが、京都は働く人の9割が中小零細企業に勤めています。だから、客足は減る一方です。聞くところによれば、景気の良かったころと比べて、サラリーマンのお父さんのお小遣いも減っているみたいです。家の必要経費や子どもの教育費は削れないから、家計の中でお父さんのお小遣いが減らされるんです。働く人のささやかな楽しみである飲み代が削られると、飲食業界は真っ先に影響を受けるんです。我々の商売は、時代の動きが最先端で分かります。

     もちろん昔も景気が悪い頃がありましたが、グローバル経済はまだそれほど進んでいなかったので、良し悪しは別として、公共投資があれば建設業界にたくさんお金が流れていました。すると、まだ仕事を始めていなくても、とりあえず1年間の予定が詰まるので、工務店のご主人方がよく遊びに来られたものです。今はいくら公共投資しても、大企業、それも大阪資本じゃなくて東京資本、下手したら海外資本のところにお金が流れるので、地元の中小零細企業には全く波及しない。安倍首相の言う「トリクルダウン」なんてものは、夢のまた夢の話ですね。それが京都経済の現状です。

     

    ―地元の経済がまわっていない状況なんですね。

     

     今、京都ではインバウンドと言われる観光業が盛んです。我々飲食業界でも、例えば中国の団体客をターゲットにした営業をすることがある。その時はいいんですが、波が引いた時にはお店も存続の危機に陥るんですよ。お店の趣が変わって、常連のお客さんが来づらくなったという例も多々あります。旅行雑誌などに載った時も、載ってから3ヶ月くらいはすごい行列ができますが、その波が次のお店に移ると、客足はパタッと止まる。もちろん飲食店も努力していますが、やはり根本的には、地元のお商売の人や会社にお勤めの人が潤うような経済にしないと、経営は安定はしません。

     

    ―中小企業もどんどん外に進出して競争すれば良いという考え方もあります。

     

     外に出て行ける企業はごくごく一部ですね。中小企業でも技術開発が盛んで、最先端の特許を持っているようなところはいいですが、普通はそう簡単には動けないですよ。

     

    ―お客さんとの会話で感じることはありますか?

     

     今は大丈夫でも、将来に不安があるという方が多い。厚生年金すらどれだけ保障されるのか不透明ですよね。例えばヨーロッパだと、病気になってもそれまで頑張って仕事をしていれば、リタイア後の生活の心配はない。そこが日本との大きな違いですよね。将来への不安があるから、今、お金が使えない。コツコツを貯めておかざるを得ないということが、消費経済不況の根本にあると思います。今の日本の経済は、6割が個人消費ですから。
    うちに来るサラリーマンのお父さん、「お父ちゃん、お金使ったらあかんよ」って奥さんに言われてるらしいです。そういった不安を取り除くことが一番の景気対策だと思います。

     

    ―最低賃金について、与野党も公約に掲げている1000円や1500円というのは、中小企業にとっては厳しい数字ではないですか。

     

     今、こんな状態で賃金上げられるわけないというのが本音です。ただ、そこには手当ての問題がある。中小零細企業でも、働く人の社会保険料がものすごく大きいんです。例えばそこに補助を出すなどしてほしい。ほかに、頑張って賃金を上げたところには公的な支援をするなどの取り組みがあれば、相乗効果で必ず状況は良くなってくると思います。やっぱり人材を確保するためには、ある程度賃金の保証もないとダメですしね。最低賃金を上げることは必要だと思います。税金の使い方によって、上げることは可能です。

     

    ―アベノミクスについてはどうお感じになりますか。

     

     「物価を2%上げる」と言われていますが、ふつうの人からすれば、物価が上がったら困るんですよ。例えば所得が5%ずつ上がるならいいですが、中小零細企業に勤める人の所得は全く上がらないどころか、横ばい、あるいは下がっているところも。実質賃金も下がったし、生活はちょっとずつ苦しくなっているというのが現実です。アベノミクスのプラス面というものは、ふつうの人には何もないんじゃないでしょうか。

     

    ―中小企業を経営されている立場から、政治に何を求めますか。

     

     ふつうに頑張って働いている人が、報われる世の中になってほしいなと思います。誰もが、お仕事して、ご飯食べてお風呂入って、「仕事頑張ったな」ってたまには一杯飲んで眠りにつける、そんな世の中であってほしいと思います。

     

    ―今日はありがとうございました。